一般社団法人WITH ALS代表理事。COMMUNICATION CREATOR / EYE VDJ。1986年LA生まれ、東京育ち。(株)博報堂/博報堂DYメディアパートナーズで、コミュニケーション・マーケティングプラン立案や新規事業開発に従事。2013年に難病ALSを発症。2016年にWITH ALS設立。「ALSの課題解決を起点に、全ての人が自分らしく挑戦できるBORDERLESSな社会を創造する」ことをミッションに活動中。https://withals.com/
生来の挑戦者がいま挑むこと
今から約7年前の2014年、世界中の著名な人々が氷水をかぶるかALS協会に寄付をするという、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の社会的認知向上を目的としたキャンペーン「アイス・バケツ・チャレンジ」がSNSを席巻した。その年の冬、武藤さんはALSを宣告された。
ALSは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだん痩せ、自らの意思で身体を動かせなくなる病気だ。運動障がい、コミュニケーション障がい、そして呼吸障がいが起こるが、運動神経系の疾患のため、知能はもちろん、感覚神経系で感じる寒暖やかゆみなどの身体の感覚、視力や聴力、内臓機能などは保たれる。武藤さんは、持ち前のチャレンジ精神や広告プランナーの経験を生かし、手足が使いにくい、転びやすい、という状況をまだ受け入れきれない状況のなか、宣告から数ヶ月で「WITH ALS」プロジェクトをスタートした。
「僕は、幼い頃からまだ誰もやっていないことへの挑戦がとても好きでした。マウンテンバイクが大好きで、誰も下ったことのない階段を自転車で駆け下りるとか(笑)。米国ロサンゼルスで生まれ、幼少期はハリウッドの近くで過ごしていたことから、とにかく映画が好きで、好きな映画を観てはその映画のアナザーストーリーを自己流で想像していました。そう考えると、新たなストーリーを想像し、まだ誰もやっていないことに挑戦し、可能性を追求するという僕のスタイルは、ALSになるずっと前から全く変わらないですね」
WITH ALSは、マタニティマークのALS患者版、「ALSマーク」をつくり支援者の輪を拡げるというアイデアからスタートした(2016年に一般社団法人化)。WITH ALSという名前は、「ALS患者が、日々ALSと共に闘う証(赤)」「ALS患者を支える人が、ALS患者と共に歩み続けることの願い(白)」に由来している。グラフィックは2色の矢印から構成され、赤い矢印を白い矢印が食い止めるような配置は、ALSの進行を止めたいという願いを表したという。
「僕は広告業界出身なこともあり、コミュニケーションデザインの観点からアイデアを企画にします。WITH ALSでもさまざまな企画を立ち上げてきましたが、ベースにあるのは『ALSの課題解決のためには、誰に、どんなメッセージを伝えるべきか』ということ。その一例が、メガネ型ウェアラブルデバイスを用いて、眼の動きだけでデバイスを自由にコントロールできるようにする『FOLLOW YOUR VISION』プロジェクトです。僕はこのプロジェクトで生まれたアプリを使って、視線入力のみでDJ/VJを行う活動をしています。
ALS患者の僕自身が『EYE VDJ』として活躍することが、『誰しもに表現の自由がありテクノロジーによって不可能を可能にできる』という、障がいを抱える人にとってのエールになることを期待したのです。そしてALSと無縁だった方には、ALSとの接点になることを目指しました。僕にとって、音楽やエンターテイメントは幼少期から好きなことでもあり、ALS支援の輪を広げるコミュニケーション手段でもあります。身体的制約はどんどん増えていく一方、テクノロジーによって自身のクリエイティビティはどんどん進化している。僕のスローガンである『NO LIMIT, YOUR LIFE』を体現している挑戦だと思います」
FLLOW YOUR VISION|https://withals.com/post/?id=274
テクノロジーとアイデアで自分らしさを手放さない
武藤さんは、2019年2月に人工呼吸器を装着するための気管切開手術を受けた。気管に穴を開ける、つまり自分で声を出すこととのトレードオフになる。呼吸維持のためとはいえ、多くのALS患者の方が悩む措置だ。武藤さんは一時は声が出なくなったものの、なんと肉声を保ち、その様子に家族や友人は涙して喜んだという。声を失うことに自身が感じた恐れや周囲の様子を受け、「声」がもつアイデンティティや「その人らしさ」の重みを強く感じたことから、ALS患者の声を救うサービス開発プロジェクト「ALS SAVE VOICE」を立ち上げた。このインタビューも、まさに「ALS SAVE VOICE」から生まれた技術で実施している。
「呼吸器を装着したとしても『自分らしい』人生を歩み続けられるかどうかは、ALS患者にとって、前を向いて生きていくうえで非常に重要なことです。皆さんも、自分の声を失ってしまったら、大切な人の声が聞けなくなったら、どう思うでしょうか? どうか想像してみてほしい。障がいの有無にかかわらず、ひとり一人の声は、その方の大切な個性だと私たちは思うのです。僕は、気管切開手術の約1年後に受けた咽頭気管分離手術によって、肉声を失いました。でも今は新たな自分なりのコミュニケーションスタイルを確立しています。日常生活の会話、講演やラジオ出演、企画書作成やIllustrator(グラフィックソフトウェア)を使ったデザインなど、日々視線入力でできることの限界に挑み続けています」
ALS SAVE VOICE|https://withals.com/post/?id=347
「ALS SAVE VOICE」は、分身ロボット「OriHime」で知られるオリィ研究所、東芝デジタルソリューションズ、WITH ALSの共同プロジェクト。「FOLLOW YOUR VISION」ではJINS MEMEと協業するなど、武藤さんは他企業とのコラボレーションやクラウドファンディングの活用で、どんどん不可能を可能にしている。それも、かなりのスピード感をもって。一般販売に向けて現在開発中の「NOUPATHY(脳パシー)」も、電通サイエンスジャムと取り組んでいるもので、こうした脳波を使ったコミュニケーション装置はALS患者にとって「最後の希望」になると武藤さんは話す。
「ALSの進行が進むと、自ら意思を伝える事が全くできない『完全な閉じ込め状態(TLS:Totally Locked-in State)』になる可能性があります。意識や五感、知能はまったく変わらないのに自らの意思を発信できないことは、私を含め多くの患者にとって恐怖です。脳波と聴覚を活用し、『はい/いいえ』だけではない自由な新しいコミュニケーションを、今実際にTLSでお困りの方にお使いいただきながら改良を繰り返しています。1日も早く商品として、患者やご家族の皆さんにお届けしたいです」
NOUPATHY|https://withals.com/post/?id=438
武藤さんは「NOUPATHY」を使い、自身が伝えたい言葉を脳波で選択し、そこからAIで生成されたリリックをラッパーが奏でるという「BRAIN RAP」にも挑戦。実現のためのクラウドファンディングも目標金額を大きく上回り、ALS啓発音楽フェス「MOVE FES. 2019」でお披露目となった。DJ、VJに続いて、武藤さんは次々と夢を叶えてゆく。
つながれば、想像できる他者が増える
WITH ALSのミッションステートメントは、「ALSの課題解決を起点に、全ての人が自分らしく挑戦できるボーダレスな社会を創造すること」。エンターテイメント、テクノロジー、介護の3領域で事業を行い、さまざまな企画・サービス・製品をプロデュースしたり、研究や開発に取り組んでいる。ALSに照準を当てながらも、提供するサービスや企画には、ALS患者以外の方でも障がいの有無にかかわらず救われる人、楽しむ人が多いのが印象的だ。医療や看護に限らない、「個人や他者の幸せの追求」という福祉本来のありようにも見える姿勢は、どうすればより多くの人も実践することができるのだろう。
「僕自身、ALSになってから見える世界が広がった気がします。それは、車椅子の友人やLGBTQ+の友人が増えたから。今まで接点のなかった人たちとつながることは、自分の視野を広げる鍵だと思います。仲間が困っているなら助けたいという感情は、誰しもにあると思うんです。今もSNSで友人からよく相談がきますが、どんなに忙しくても相談に乗りたくなっちゃいますね。こうした気持ちの連鎖が、自他の幸せを考える姿勢につながるのではないでしょうか」
「身近なところから視野を広げる一方で、社会課題から目を背けずに自分事化することも大事だと思います。例えばWITH ALSは介護分野にも着手しはじめましたが、超少子高齢社会である日本において、10年後に介護の人手不足で社会全体が困窮するのは目に見えています。他人任せで傍観者でいるのは危険ですよね。いずれ自分も当事者になるかもしれないから」
他所は他所、うちはうち。そんな自分と他人の間に線を引くような言葉があるが、その線はポジティブに機能することもあれば、逆もある。当事者をより深く理解しようとするには、何が有効なのだろうか。
「広告の仕事をしていたから、相手を想像することに自分は長けているほうだと思っていました。でもそれは自惚れだった。ALSになって、当事者の気持ちを想像することの難しさを痛感したのです。でも、当事者の話に耳を傾けたり、SNSでつながることはいくらでもできます。だから、僕自身は人とつながることで相手を想像できる人間に成長していきたいと常々思います。つながって友達ほどの関係性になれば、もう他人事ではなくなりますよね」
制約が増えても創造性は進化しつづける
ALS発症前、プライベートで音楽やファッションのイベントをプロデュースしていた武藤さんは、WITH ALSを法人化した2016年から、ALS啓発イベント「MOVE FES.」を毎年開催してきた。しかし2020年は新型コロナウイルス感染防止のために中止に。そこで立ち止まらずに突き進む武藤さんはあっという間に方向転換し、「コロナショックのなか塞ぎ込んでしまう人が多い今こそ、小さな挑戦にも無謀と思えるような挑戦にも立ち向かう人を応援したい」という想いから、「EVERYONE, CHALLENGER.」プロジェクトをスタート。クラウドファンディングの目標も大きく達成し、楽曲とアパレル作品を制作した。
EVERYONE, CHALLENGER.|https://withals.com/post/?id=443
「暗闇の中で懸命に生きる、多様な挑戦者を描いた音楽とアパレルの作品です。外出自粛でリアルに会えなくても、エールをみんなに送りたいと思いました。今日着ているのも、これから発売するスウェットですよ。僕はアパレルもコミュニケーション手法だと思っています。機能性と多様性を追求したボーダレスウェアブランド「01(ゼロワン)」も、人は自らの意思で0から1を生み出すことで、世界は広がるし変化を起こせるという思いでつくっています」
01 BORDERLESS WEAR|https://01borderlesswear.stores.jp/
「EVERYONE, CHALLENGER.」プロジェクトのキービジュアルには、フラワーアーティストの東信(あずま・まこと)さんとコラボレーションし、フラワーアートを制作。「(東さんの)作品の花々のように、人それぞれの有限な時間のなかでそれぞれの花を咲かせよう」という武藤さんが描く世界観を表現した。また楽曲は、ロックバンドandropが作曲・歌で参加している。andropのギター・ボーカルの内澤崇仁さんとは、武藤さんが音楽フェス「J-WAVE INNOVATION WORLD LIVE PLUS」に出演されたときのステージ共演から交流がスタートしたという。
「今回、全てのクリエイティブディレクションを視線入力で行うという初めてのことに挑戦しました。本当に大変でしたが、納得のいく作品をつくりあげることができました。コロナ禍でもその後も、エンターテイメントの力で希望のメッセージを届ける挑戦を続けていきたいと思います」
“EVERYONE, CHALLENGER.(feat. androp)”
by EYE VDJ MASA
作詞:武藤 将胤(WITH ALS) 作曲:内澤 崇仁(androp)
https://linkco.re/F635ZdSs
咲かそう
Bloom woo
僕らだけの花を
A Bloom for only us
ふと先に進むのが 怖くなる時があるんだ
どんな明日が待ってるか 理想の僕になってるか
でもすべての命が すべての人生が
有限なものだと 日々突きつけられて分かった気がする
約束された明日なんて 誰にもない
この日の意味は 未来の花が教えてくれる
今この一瞬を 一瞬を後悔しないよう
大切に生ききろう
咲かそう
Bloom woo
僕らだけの花を
A Bloom for only us
大切な挑戦の
Bloom woo
結晶が強く強く
A Bloom for only us
色鮮やかに輝く
ふと動けない日々が 怖くなる時があるんだ
君に声は届いてるか あの日みたいに笑ってるか
でもすべての出会いが すべての時間が
無駄などなかったと 奇跡を振り返って分かった気がする
約束された答えなんて 誰にもない
あの日の意味を 名もなき花が教えてくれる
今この一瞬が 一瞬が未来につながる
大切に生ききろう
咲かそう
Bloom woo
僕らだけの花を
A Bloom for only us
大切な挑戦の
Bloom wooh
情熱よ強く強く
Bloom woo
色鮮やかに輝け
意図的に人を不幸にするクリエイティブなんて存在しない(であってほしい)。そう思うと、幸福を追い求めるというそもそもの「福祉」とクリエイティブって同線上のものなんでは?という嬉しい気づきに出会えました。